先週に引き続き、週刊ポスト3/26 発売号では、検査特集を組んでいる。
そこで「胃がんリスク層別化検査」=通称ABC検診を受けて、一命をとりとめた群馬大学元学長・鈴木守医師のご体験を書かせていただいた。
世界的な熱帯医学と寄生虫の研究者である鈴木医師が、胃がんリスク検査を勧める理由を、ぜひ知っていただきたい。
簡単に説明すると、胃がんリスク検査は、胃がんの主要因である「ピロリ菌の感染有無」と、「胃の萎縮度」(ペプシノゲン値)を組み合わせて、リスクをグループに分けるものだ。
そのリスクに応じて、内視鏡検査や、ピロリ菌の除菌治療を受ける。東京・目黒区が、胃がんリスク検査を使って内視鏡検査を受けた人とバリウム検査の人を比較したところ、胃がん発見率では、胃がんリスク検査が4倍も高かった。
自治体や会社の検診担当者は、いい加減にバリウム検査を中止することを検討すべきだろう。
そもそも、胃がんの主要因であるピロリ菌の感染を無視して、全員一律にバリウムを飲む必要性は何もない。
長年、胃がん診療に携わっている乾純和医師は、こう表現をしている。
「ピロリ菌に未感染の人がバリウム検査を受けるのは、魚のいない池で釣りをしているようなものだ」
また、バリウム検査の画像では、「一定程度の大きさ」に胃がんが成長しないと発見できない。分かりやすく言えば、「進行がん一歩手前で拾い上げる」という危うさがあるし、実際にバリウム検査で胃がんが見つかった時には、すでに進行がんになっていた人が少なくない。
今回のポストでは紙面枠の関係で触れることができなかったが、
進行が早く、予後が厳しいスキルス性胃がんについても、胃がんリスク検診は有効だ。
国際医療センター・国府台病院の上村直実院長は、厚労省の検討会議で、ピロリ菌感染を調べることがスキルス性胃がんの早期で発見に繋がると発言している。
「スキルス胃がんは、バリウム検査の方が見つかる」という医師がいるが、それは進行して完治が難しい段階のスキルスを指しているのであって、一般の人には誤解を与える発言だ。
私の事務所には、今でも全国からバリウム検査で大腸穿孔(孔があくこと)等の深刻な副作用を受けたご本人や家族から、相談が寄せられている。
大腸穿孔になると、敗血症のリスクもあり、抵抗力の弱い高齢者では死亡したケースもあった。
ご相談の方々には、PMDAの医薬品被害救済制度をご案内しているが、バリウム検査の実施者である自治体の対応は、とても冷たいものだと聞く。
「深刻な副作用のリスクがある」
「早期発見の精度は、胃がんリスク検査の方が4倍も高い」
このようなバリウム検査を漫然と続けると、検診担当者はいずれ「命の不作為」を問われるかもしれない。
(文責・岩澤倫彦)