18日、富士通が主催するイベントで、「予防歯科のカリスマ」と呼ばれる人が登壇した。
NHK「プロフェッショナル」や、テレ東の「カンブリア宮殿」、「未来世紀ジパング」で紹介されたので、歯科業界だけでなく、一般にも高い知名度を持つ方だ。
日本は、虫歯の患者数が激減する一方で、歯医者をどんどん増やした結果、〝歯科医院過剰時代〟に入っている。
こうした中で、いま歯科業界の関心を集めているのが「予防歯科」。
簡単に言えば、従来の「歯が痛くなったら歯医者に診てもらう」のではなく、定期的に歯科医衛生士からクリニーングと検査を受けて、患者が日々のセルフケアを行えば、高齢者になっても歯を残せるというものだ。
カリスマは、東北の10万人ほどの城下町で「カリオロジー」と呼ばれる、科学的根拠に基づいた「予防歯科」を徹底的に実践、住民の口腔環境を劇的に改善した実績を持つ。
「8020運動」は、80歳になった時に20本の歯を残すことを目標にした、国と日本歯科医師会による運動。これに対して、カリスマは「 KEEP28」を掲げている。親知らずを除く、すべての歯を残すことを目指すものだ。
私は、この挑戦的かつ、至極真っ当なスローガンを聞いて嬉しくなった。かつて日本人の口は、虫歯だらけだった時代があった。だからといって「8本も歯を失う」前提の目標設定には違和感がある。歯科業界は「8020運動」を恥ずかしいとは思わないのだろうか。
この日、カリスマが富士通のイベントに登場したのは訳がある。彼が提唱する予防歯科は、富士通のクラウドシステムを使い、患者が自分の口腔状態を確認できる仕組みを採用しているからだ。
これを患者が利用するには、自費診療として、毎回1万5千円のメンテナンスを、最低でも三回受ける必要がある(東京・分院の場合)。
カリスマは誇らしげにこう語った。
「予防歯科は保険診療ではできません。ワクチンや検診と同じく、自費で行うものです。最近では、企業が従業員に予防歯科の費用を助成する動きが出ています」
カリスマが切り開いた独自の「予防歯科」モデルは、一定の経済的な余裕がある人々を対象にしたもの、という見方もできる。
確かにクラウドで自分の口腔状態を確認できるのは、IT時代にふさわしい便利なシステムだが、本当に「予防歯科」に必要なコストか、疑問だ。
北欧で普及している「予防歯科」は、あくまで社会政策の一環であり、「セレブ層をターゲット」にした医療ではない。
「予防歯科」とは、もっとシンプルで、万人に普及させるものではないだろうか。歯医者や企業の都合で、高額な自費診療にする流れには賛成できない。
最近、テレビCMでも「予防歯科」というフレーズが盛んに使われるので、まるで「新しい概念」のように聞こえるかもしれないが、実は違う。40年以上も前から、「予防歯科」を普及させようとした、先見性のある歯科医が関西にいたが、黙殺されていた。
それではなぜ、今頃になって、「予防歯科」がブームになっているのか?
歯科業界の表と裏を取材して分かった「隠されてきた歴史と意外な事実」を、今月出版される拙著に記した。
自分の歯を守るためには、歯科業界の実態をぜひ知ってほしいと思う。