去年から公的な胃がん検診として内視鏡検査の導入が始まったが、大半の自治体はバリウム検査のままだ。
全国に先駆けて内視鏡検査を導入した新潟市では、バリウム検査よりも3倍も早期胃がんの発見率が高いと判明した。
「胃がんの99%がピロリ菌由来」であることは、消化器を専門とする医師たちの中で共通認識となっている。
バリウム検査は、医師たちがレントゲン画像を読影して、胃がんの疑いがあるケースを拾い上げていくが、その際にピロリ菌に感染しているかはある程度、確認することが可能だ。
しかし、その事実は受診者には告知されていない。 検診の専門家たちが、「胃X線検診のための読影判定区分」でそのように決定したからだ。
心ある医師の中には、独自にピロリ菌感染の事実を受診者に伝えているが、全体で見ると僅かでしかない。
ピロリ菌を除菌することで、胃がんリスクを下げることが可能だし、定期検査を受ける強いモチベーションになるのに、受診者は知らないまま放置されている。 一方で、ピロリ菌未感染者にとって、バリウム検査を受けるメリットは何もないし、被曝、バリウムによる大腸穿孔、最悪の場合は死亡するリスクを被っていることになる。
2012年、滋賀県東近江市では、バリウム検査中のアナフィラキシーショックが原因で、主婦(当時57)が死亡する事故が発生した。その際、蘇生措置が適切に行われなかった可能性を示唆する状況証拠があるが、検診車という密室の出来事のために事実解明は果たせなかった。
実は死亡事故の3年前、この主婦はバリウム検査中に気分が悪くなり、検査を中断していた。その当時、担当した放射線技師が「次からはバリウム検査以外の胃がん検診を受けた方がいいと主婦に伝えて欲しい」と東近江市の職員に伝言を頼んでいた。
しかし、東近江市は伝言を聞いていない、と否定している。
この他、福島県でも、バリウム検査によって大腸穿孔となり、緊急手術で一命をとりとめた男性がいる。 この自治体も、検診での副作用は自己責任になるという姿勢を変えなかった。
問題が多く、旧態然とした古い手法のバリウム検査が続く理由は、全国に張り巡らされたがん検診組織の維持が目的ではないか、と疑われても仕方がないだろう。 ゲノムが解析された時代に、かつての集団予防接種と同じ思考回路のがん検診は、明らかにミスマッチだ。
方法を変えれば救える命があるのに、これを放置するのは重大な責任問題ではないだろうか?