「普段の歯磨きで使っている道具を持ってきて下さい」
初診の患者にこう伝えると、多くの人が「1本」の歯ブラシを持参するという。
これまで日本人は、歯ブラシ1本で歯磨きを済ませてきたが、そこが大間違いだった?!
優秀な歯科衛生士ほど、歯磨き指導に熱心。 毎日のセルフケアは、虫歯や歯周病を防ぐ基本で、これがしっかりできていないと、いくら治療をしても再発を繰り返すからだ。
しかし、意外に分かっていないのが、歯ブラシなどの道具選び。
今週発売中の週刊ポスト「本当は大間違いだった歯ブラシ、ハミガキ選び」では、歯周病を悪化させる可能性がある歯ブラシの存在を指摘した。
三本の歯ブラシを並べた画像のうち、まず左の「極細タイプ」は、最近のトレンド。 歯周ポケットに入る設計という触れ込みなのだが、 歯科医によると毛先が入るのは3ミリ程度までだ。
それに、歯周病を引き起こすバイオフィルムが溜まりやすいのは、歯と歯の間の歯周ポケット。この部分はフロスなどを使用しないと除去は難しい。また、歯科医によっては、極細タイプは「毛にコシがないので、バイオフィルムが落ちずらい」という意見もある。
日本臨床歯周病学会の認定歯科衛生士・太田由美氏は、毛先のタッチが柔らかいという理由で使用しているから、このタイプは使い方次第だろう。
問題なのが、中央の「山切りカット」。
かつてはよくテレビでCMが流れていて、歯と歯の隙間に「山」部分が入って食べカスを書き出せる、と強調していた。 実は、私もこのタイプを時々使用していたことがある。
しかし、毛先が切りっぱなしで鋭くなっており、歯の表面や歯肉(歯茎)を傷つける可能性があるのだ。これによって、歯周病を悪化させているケースもある。
さらに、歯の大きさ(幅)は個人差が大きく、山切りのギザギザが、ぴったり合わない人もいる。
そうなると「山部分」は、ヤスリのようになってしまうだけだ。
歯科関係者の多くが使用しているのは、右側の極めてスタンダードなタイプ。
歯科医院でも、一本100円程度で販売されているものだ。
虫歯や歯周病の原因となる「菌」は、歯や歯周ポケット内にへばりつくバイオフィルム内 で繁殖している。これを除去するには、歯ブラシ一本では到底無理。
だから、歯の隣接面には「フロス」、 歯の根元部分には「歯間ブラシ」、 奥歯などの歯ブラシが届きにくい部分などは「ワンタフトブラシ」、 意外に忘れがちな舌部分の汚れ用に「舌クリーナー」。
欧米では常識になっているフロスでさえ、日本では普及が進んでいない。これは歯科治療の現場だけの責任ではない、と私は思う。