がん患者が告発する「免疫療法の闇」

週刊ポスト「やってはいけない免疫療法」より(C)MICHIHIKO IWASAWA
週刊ポスト「やってはいけない免疫療法」より(C)M.IWASAWA

その女性は、医療関係者だから、自分がステージ4のがんだと知った時に専門知識をフル稼働させ、地域で最も信頼できる大学病院で、最善の治療を選択した。
画像や腫瘍マーカー値では、がんが確認されない「寛解」に持ち込んだが、再発の不安はつきまとってきた。

治療を受けた大学病院の敷地内に「がん免疫細胞療法」という先進医療を行う民間施設があると知ったのは、偶然に見たテレビの番組だった。
自分の免疫力を高めて、がん細胞を退治できるという。再発も防げるし、進行がんから生還して元気になった患者が、笑顔でテレビに出ていた。
民間施設を訪ねてみると、最新式の医療機器が揃い、待遇はVIP並み、医者は丁寧で優しい。国立大学の医師が関係している医療技術だから、何も疑う理由は何もない。
ただし、治療費は1クール200万円。保険で下りたお金を全て注ぎ込んだ。

女性は患者仲間にも、免疫細胞療法のことを伝え、4人が治療を受けた。自分だけでなく、みんなの命もこれで救われると信じ、喜びを共有した。だが、女性は、がんを再発。患者仲間も、次々と亡くなっていき、女性一人だけ抗がん剤治療で生き残った。
そして、免疫細胞療法の有効性は、まだ証明されていないことを知り、怒りと同時に患者仲間に対する後悔の念に駆られた。

「完治が難しい」と医師に告げられた時、何としても生き抜く方法を探すのが、人間の性だ。
特に、進行がんや、再発を恐れる患者の心理状況は、不安に揺れて、冷静ではいられない。たとえ、医療関係者であっても、命の危機に立つと、冷静ではいられない。

私は2014年から「がん免疫細胞療法」について調べてきたが、この治療を体験した患者を直接取材するまでは、報道することを控えてきた。
当事者の声を聞かずしては、客観的な報道とは言えないし、「免疫療法は選択肢の一つ」という声もあったからだ。
当然のことながら、患者だけでなく、がん治療の専門家(腫瘍内科医、外科医など)、免疫療法クリニック、研究者、医療界のリーダー、元厚労技官を取材してきた。

そこで今回は、週刊ポスト・9月8日号で、巷を席巻している「がん免疫細胞療法」の実態、有効性をめぐる議論を中心に記事を書いた。

末期がん患者が騙される免疫細胞療法[週刊ポスト2017.9.8号]
がん患者がすがる「免疫療法」医師同士は競合を詐欺師扱い
免疫療法に誘導する巧妙手口 画像偽装、患者TV 出演など
大学病院でのがん免疫療法に医師の間でも議論噴出

今回の記事は、医療関係者の女性が自身の免疫療法についてありのまま率直に証言して下さったこと、この調査報道を陰で支えて下さっている方々の存在によって実現した。
この場を借りて、心から感謝を述べたい。
本当にありがとうございます。

「がん免疫細胞療法」の具体的な問題については、引き続き様々な形でお伝えしたいと考えている。
昨日、臍帯血治療を無届けで行なっていた、自由診療クリニック医師などが逮捕されたが、これが「あやしい免疫療法の終わりの始まり」なのか、それとも単なる「トカゲの尻尾切り」なのか、注目していきたい。