「胃がん、大腸がん検診で4割見逃し」のNHK報道に対する”検診ムラ”の圧力と焦り

先月26日、NHKは「青森県の胃がん・大腸がん 検診で、4割が見落とされた可能性がある」という弘前大学の調査結果(青森県からの委託事業)を報道した。
がん検診の頂点に君臨してきた、国立がん研究センターの検診研究部としては、面子を潰された格好になったわけだが、昨日(7月13日付)で、「見解」を公表、調査やNHKの報道に対して次のように反論している。

  • 「青森県の見落としの割合は、国がんが中心に進めてきた検診の精度管理体制構築の事業から、勝手に数値を解釈したもので、国がんとしては認めない」
  • 「見落としの割合は、40市町村ある青森県のうち、10市町村での予備的なもので青森県全体の実態を反映するものではないし、調査期間が短い」
  • 「今回の調査結果から検診の見落としについて、評価することは困難で、さらなる検討が必要」

国がん・検診研究部の主張を精査すると、自己矛盾と論理破綻をきたしていることがよく分かる。
自分たちに不利な調査結果だから、本来の目的と異なる研究は認めないというのは無理筋だ。10/40というサンプル数は決して少ないものではないし、「見落とし」の研究は、次年度の検診結果で判明する。
死亡率減少効果のように、10年スパーンで行うような研究ではないのだ。
青森県の公的な胃がん検診は、今も全例がバリウム検査だという。調査報告書の行間からは、その本質的な問題が伝わってくる。

間接フィルム
バリウム検査で使われる間接フィルム。(C)M.IWASAWA

バリウム検査は、微小な変化を診断するには不向きで、読影(画像診断)での見逃しや、見落としなどのヒューマンエラーも起きやすい。
早期発見としての精度は、内視鏡検査の方が3倍高い。
さらに、胃がんリスクとして明確なピロリ菌感染を、未だに排除しようとしている。
精度管理も必要だが、検診方法に大きな問題があるのだ。

さらに、胃がんで命を落とす人が多い要因の一つとして、進行が早く治療が難しい「スキルス胃がん対策」が、検診事業からすっぽり抜け落ちていることがある。
ピロリ菌に感染して慢性胃炎になっている人に、専門的な診断能で内視鏡検査を行えば、完治できる段階で発見することも可能だ。
しかし、検診学者はその努力を怠り(もしくは無視)、ひたすら統計学的な数字遊びに終始してきた。

国がん検診研究部は、がん検診の精度管理に莫大な研究費を使ってきたが、青森県の調査では精度管理が徹底していない実態が明らかになった。
その責任は自治体だけではなく、国がん検診研究部にもある。

検診ムラが守ろうとしているのは、国民の命ではなく、面子と利権だけだったことが、今回の「見解」で鮮明になった。
「4割の見逃し」は、救える命だった。この重い事実は決して動かせない。
検診ムラの圧力に屈したのだろうか。
この件に関する第一報の記事は、NHK NEWS WEBから削除されている。