「〝どうせそれは保険だから〟という言い方をする歯医者の先生がたくさんいるんです。
でも私は、保険だからといって手を抜かず、やってきました。
もし一度でも手を抜いたら、それが自分の技術レベルになるからです」
昭和27年から今も現役を続ける、歯科技工士の大島良市さんを訪ねてきた。
保険でも自費でも同じクォリティで仕事をする、という信念を貫いている人だ。
使い込まれた作業場には、その熱い想いが満ちている。
途中で、何度も愛犬のエルが大島さんの側に寄ってきて甘えるので、こちらも癒される楽しい取材になった。
まるで弾丸の薬莢みたいなキャップ、何だかお分かりだろうか?
通称:〝バケツ冠〟と言われていた、銀歯の一種。(正式名称:無縫金属冠)形を整えてから、患者の歯に被せていたという。
今の銀歯は複雑な工程の〝鋳造〟で製作しているので、かなり正確に患者の歯を再現しているが、これはバケツを被せたように不恰好だったらしい。
ただし、エナメル質を極力削らないので、歯は長持ちするという人もいる。
保険と自費。
歯科治療の不思議なダブルスタンダードの意味が、大島さんの取材で見えてきた。