HPVワクチンをめぐって、反ワクチン報道に批判的な記事を書いている、医師でジャーナリストとされる「村中璃子」という人物が、科学誌ネイチャーが主催する「ジョン・マドックス賞」を日本人で初めて受賞した。
大半の新聞やテレビは、これを報道しなかったが、上武大学の田中秀臣教授は『日本のマスメディアの特異な現象を目の当たりにした。いわゆる「報道しない自由」ともネットなどで批判される態度である』として批判する。
田中氏が把握している限り、村中氏の受賞を報じたのは、この記事が掲載されているサイト「iRONNA」を運営する産経新聞と北海道新聞のみという。
そして、「村中璃子」氏なる人物の受賞を黙殺したのは、一種のコーディネーションゲームであるとして「VHS対ベータ戦争」を引き合いに出している。
あえて指摘するが、これは筋違いのズレた視点だ。
「村中璃子」氏の受賞を大手メディアが報じなかったのは、田中教授の指摘とは全く異なる理由がある。
「ジョン・マドックス賞」は、ネィチャーが主催するとはいえ、設置されて歴史の浅い賞であり、知名度が低いこと。
「村中璃子」なる人物は、小児用肺炎球菌ワクチンを供給する外資系製薬企業に二年間勤務していた経歴があり、中立性や客観性に疑問があること。
そして最大の理由は、「村中璃子」という名前が、ペンネーム・もしくは芸名であることだ。
作家として活動する医師が、ペンネームを使うのは珍しくない。
しかし「ペンネームのジャーナリスト、医師」には違和感がある。そんな人物は社会的に信用されなくても当然ではないか。
もし、自分の正体を知られずに活動したいなら、少なくてもジャーナリストという肩書きはつけるべきではない。
田中教授が、この人物の芸名について認知しているのかは、投稿記事で明らかにしていないが、メディア関係者は冷めた目でこの受賞を見ているし、報道することもしなかった。
黙殺というが、ペンネームのジャーナリスト、医師という姿勢が問題なのだ。
「報道しない自由」ではなく、「村中」氏という存在や同賞に対する評価が低いだけの話である。
「村中璃子」氏は、HPVワクチンの副反応について、疑念を呈しており、HPVワクチンの積極的な勧奨を中止している厚労省に批判的だ。
そして多くの医師が、この「村中」氏の主張に賛同している。
公衆衛生の視点で見れば、子宮頸がんの死亡率低下に一定の効果があるHPVワクチンは積極的に推奨するのが正しい。
一方、ワクチンによる副反応は、一定頻度で起きているのも事実だ。
欧米で問題がないと評価されても、日本人にとって絶対的に安全だとは限らない。
副反応を訴えている子供たちの中には、心因性のケースや、接種時の激痛が契機となっているケースの可能性はあるかもしれない。
ただし、HPVワクチンが契機になっているのは客観的事実であり、子供たちの未来を考えると因果関係の議論よりも、治療やリハビリなどの対策を早急に行うべきだ。
これについては、複雑な問題が絡んでいるので、稿を改めて記したい。