デンタルプラークは歯の垢?

「プラークを歯垢と呼ぶべきじゃない。プラークは〝垢〟とは違う」
「エビデンスに乏しい情報が、歯科では氾濫している。嘘も多い!」

デンタルプラークの恐ろしさを訴える奥田克爾先生。(C)M.IWASAWA

口腔内バイオフィルムに関する研究の第一人者、奥田克爾先生は、怒りをこめてこう述べた。今月21日に都内で行われた「ADI.Gアカデミー」でのこと。
口腔内では、数百種類!の細菌が結合してプラーク(=バイオフィルム)を形成して、虫歯や歯周病を引き起こしている。
虫歯も歯周病も、このプラークの細菌による「感染症」なのだ。

特に歯周病の原因菌は、肺炎、心臓疾患、アレルギーなどを引き起こす要因にもなっている。
口腔内のプラークは、命を左右するリスクともいえるし、すでに、がん手術などの前に行う口腔内ケアは、術後の合併症などの抑制に効果があるとして、保険診療として認められているのだ。
いわゆる身体の「垢」と「デンタルプラーク」は、リスクの大きさを考えると、全く別モノとして扱うべき、というのが奥田先生の持論だ。

「エビデンスに乏しい情報が、歯科では氾濫している」
このご指摘にも、歯科治療を取材してきた者として、深く共感を覚える。臨床試験なども行わず、「何人かの患者に効いた」という印象だけで、独自理論を〝自著〟などで主張する歯科医が多い。
「歯肉マッサージで歯周病は治る」「歯周病は塩で治る」「茄子のヘタの黒焼きが効く」などのお手軽な情報は、一般受けするからだろう。

こうした〝自著〟は、金を出せば出版できる自費出版枠を使うケースが多い。
例えば、大手出社社の幻冬舎は「幻冬舎ルネッサンス」という自費出版のブランドを立ち上げている。
著名な作家の本を出している幻冬舎の本と同じように見えるから、独自理論の歯科医だけでなく、免疫細胞療法クリニックなどが患者を騙すのに利用している。
エビデンスなき医療のツケを払うのは、一般の患者なのだ。

奥田先生が、2016年に上梓された著書「史上最大の暗殺集団 デンタルプラーク」は、抜歯後に敗血症で命が奪われた患者の訴訟に関わったことがキッカケだという。
初見では少し大げさなタイトルだと思ったが、奥田先生の実体験から生まれたタイトルだと知って、納得した。