厚労省が、ようやく胃がん検診にヘリコバクター・ピロリ菌の感染を考慮する方針を決めた。
実は、ここに至るまで「検診ムラ」による強い抵抗と妨害があったことは、週刊ポストや拙著でお伝えしてきた。
それでも、自治体や職場の胃がん検診は、まだバリウム検査を続けている。
根拠となっているのは、国立がん研究センター・検診研究部によるガイドラインだ。そこには「7つの大きな罪」が隠されていることを指摘しておきたい。
1、「重大な副作用事故」
私が胃がん検診の問題点を報道するようになって、様々な方々からバリウムによる副作用の相談が寄せられている。
深刻なのは、大腸などにバリウムが滞留・固着して「孔が開く」ケースだ。手術が遅れて、敗血症で死亡したケースも確認している。
命が助かって人でも補償されたのは「手術や入院費用のみ」。 休業したり、精神的ダメージや、後遺症などは、自己負担となっている。
皆さんは、こうしたリスクを説明された上で、バリウムを飲んでいるのだろうか?
2、「早期発見のトリック」
内視鏡検査で発見された胃がんの9割以上が、内視鏡手術で完治できる段階という報告がある。 一方のバリウム検査では、ある程度凹凸が出ないと、レントゲン画像に写らないので、胃を全摘したり部分切除となるケースも少なくない。
だが、検診学者は、これも「早期」としている。
また、胃がんの発見率は、内視鏡の方がバリウム検査よりも3倍高いが、この情報を積極的に伝えようとしない。
3、「見落とし、見逃し」
バリウム検査の画像は、10センチ×10センチのロールフィルムに焼き付けられる。 一人あたり最低7枚、これを200人〜300人分を一気に読影(画像チェック)するため、見通しや、見逃しが起きているのだ。
ある検診団体で、過去の画像を確認したところ、3割〜5割もの見逃しがあった。 ※現在、フィルムからのデジタル化が進められている。
だが、読影する医師からは「フィルムのほうが、ダイナミックレンジ(画像の濃淡差を解像する幅)が高い」という指摘も出ている。
4、「死亡率減少効果のまやかし」
現行のガイドラインで、バリウム検査について死亡率減少効果の証拠として採用されている一つが、中南米コスタリカでの検診。
がんの発生には、人種、地域性、食生活、環境などが、大きく影響することが判明しているのに、いくらなんでも無理があるだろう。
5、「検診ムラの利権」
がん検診の中で、バリウム検査は最も費用が高く、検診団体の収益基盤となっている。その額は年間600億円。 (大和田進・元群馬大助教授による試算)
胃がん検診ガイドラインを作成している、国立がん研究センター・検診研究部の部長は、国内最大の検診組織・日本対がん協会の評議員をしており、これは「利益相反」に該当する。
ピロリ菌の感染者に胃がん検診の対象を絞ると、検診団体は大幅減収になるのは必至。 それに、ピロリ菌の除菌治療などを行うと、胃がん検診自体がなくなる可能性も高いので、ABC検診(胃がんリスク層別化検査)の導入を阻止してきた。
6、「検診の莫大な研究費はどこに消えたか」
国がん検診研究部・現部長は、2006年から2015年までに「4億7,699万8,000円」もの厚労科研費を使ってきた。
その研究は、主にバリウム検査の精度管理などに費やされて、胃がんの死亡者数を減らすことに寄与していない。例えば、バリウム検査で「精密検査」と判定されると、内視鏡検査を受けることになるが、その診断技術には大きな格差がある。
実際に、精密検査での見逃しも起きているが、こうした診断技術の向上に、この莫大な研究費はほとんど使われていない。
7、「スキルスは検診の対象外」
国がん検診研究部は、「スキルスは胃がん検診の対象としてはいない」と明言した。最初から早期発見する努力を放棄しているのだ。
高度な診断力が必要だが、スキルスの早期発見は不可能ではない。
正確に言うと、スキルス胃がんは「印環細胞がん」などが進行した状態を指す。 スキルス胃がんは、胃壁が硬くなるので、バリウム検査で膨らみ具合から判明することもあるが、この段階では完治できない場合が多い。
だから、意識の高い内視鏡専門医は、印環細胞がんの発見に心血を注いでいる。
バリウム」検査は、昭和時代に胃がん検診として、大きな役割を果たしたことは事実。 しかし、今の時代に、バリウム検査を漫然と続けることは、救える命を見殺しにしているに等しい。
神奈川県横須賀市など一部の自治体は、国がんのガイドラインを無視して、独自に、ABC検診(ピロリ菌を考慮したリスク検査)を実施、胃がんの早期発見に成果を上げている。
こうした事実は、拙著に詳細を記しているので、自治体や企業の担当者の方々は参考にしていただき、早急に胃がん検診を再考してもらいたい。