ジャーナリストの覚悟とは何か

「新聞でも本でも雑誌でも記事を書くというのは人を傷つける行為ですよ。褒めることもあるけれど、多くの場合は人を傷つける。それを報じるのが社会的に必要なことであったとしても。そのために配慮をしたり、ブレーキをかけたりはするわけだけれども、書くということは本質的に人を傷つけるものです」

「志があれば負けはない」久しぶりに再会した恩師が教えてくれたこと(BuzzFeed 2018.2.3)

この言葉は、BuzzFeedの岩永直子さんが、読売新聞時代の上司・清武英利さんに行ったインタビュー記事からの引用である。
これまで、巨人軍オーナーである清武さんしか知らなかったが、読売社会部の叩き上げ記者だったこと、現在は一人の記者に戻り、多くの著書を出されている理由が記されている。
清武さんがナベツネという怪物を相手に、無謀とも言える内部告発をしたのは、記者魂というべき信念にあったのだ。
その弟子、ヨミドクターの名物編集長だった岩永さんが、BuzzFeedに移籍した理由も、清武さんから継いだ志にあったと知り、納得した。

今回、岩永さんが移籍する契機となった、当時のヨミドクターで書いた特集記事を読んだところ、きわめて客観的な視点で書かれた内容だと私は感じた。
反ワクチン派の医師や歯科医師らのブログ等も読んだが、岩永さんの特集記事が世論をミスリードしているとか、製薬企業の影響を受けている等と批判している。
だが、その指摘は非科学的で、根拠に乏しい。過激で攻撃的な言葉は、議論を通り越して「暴力」でしかない。
何より許せないのは、副作用(もしくは副反応)の被害に今も苦しんでいる少女たち、そこから立ち直った少女たちが、まったく置き去りにされていることだ。
彼らの批判は、自身の存在証明のために行われているに過ぎない。

清武さんや岩永さんと自分を重ね合わせるのは、大変おこがましい限りだが、私自身もイレッサ訴訟について報道した際に、誹謗中傷や事実と異なる批判を受け、当時所属していたテレビ局を離れることになった。
報道による影響は予測できたことだったが、それでもイレッサ訴訟をめぐる問題は、見過ごすことはできなかった。
もし保身のために間違ったことを見過ごしたら、自分自身が恥ずかしくて、この仕事は続けられなかったと思う。
今回の記事で、清武さんや岩永さんの生き様を知り、大きな勇気を頂いた。
ジャーナリストの仕事とは、人を傷つけることを覚悟し、その代償も自身が引き受けるということだと思う。
だから、ペンネームのジャーナリストという存在を私は認めていない。