昨日、聖路加国際病院・日野原記念ホールでの講演後、轟哲也さんはロビーに移動するとソファに崩れるように横たわった。
体力的には限界に達していたのは明らかで、すぐに主治医でもある 林章敏先生がバイタルチェックをしていた。
無理を押してまで、哲也さんが伝えたかったこと、それは、がん患者と家族が実感した緩和ケアの存在意義であり、未だに残る誤解を解くためだったと思う。
轟さん夫妻は、治療面でも精神的にも厳しい状況に追い込まれている時でさえ、多くのマスコミ取材に対して誠実に対応されていた。
理由は、他のスキルス胃がん患者の為に、現在の状況を変えたい、という思いだけだ。
新薬の治験に挑戦されたのも同じ理由だと、哲也さんは語っていた。
昨日の講演でも、ご夫婦のプライベートな精神的な危機について、ありのまま、赤裸々にお話をされていた。
真実の物語でなければ、人の心を打つことはできないと考えているからだろう。
緩和ケアの主治医として轟夫妻に関わっている林先生は、そんなお二人の姿を会場から静かに見守っていた。
こうした活動は、哲也さん自身の治療にはプラスになるどころか、大きな負担になっているはずだが、苦しみを体験したからこそ、利他的に生きることがご自身の人生として意義のあるものだと覚悟されたのではないだろうか。
一人の人間として、その利他的な精神性に強く惹かれ、尊敬の念を抱くばかりだ。
私自身、緩和ケアと「末期がんの終末期場面」をどうしても結びつけてイメージしていた。
しかし、緩和ケアの本当の役割は、進行がん患者と家族を医療面と精神面で支えること。
それを実感している当事者として、轟哲也さんは命がけで伝えようとしたのだろう。