取材して感じるのは、独善的で、自分の主張が絶対に正しいと思い込んでいる歯科医が本当に多いことだ。
少し長くなるが、歯科業界の政策提言を行っているグループ「みんなの歯科ネットワーク」の歯科医から、技工士問題に関する私の報道に対して次のような投稿がされたので、反論を述べておきたい。
この記事には「明らかに」間違った認識があります。感情的な部分はわかりますが、多くの一般の方が目にするものであるので「明らかに間違った認識」は多大な迷惑になります。どう誤解されているのかは以下をお読み頂ければわかるかと思います」
みんなの歯科ネットワーク「 歯科技工士問題の改善を目指して」 ※クリックで別サイトへ移動
週刊ポストの連載第10回では、歯科技工士が保険診療の補綴物(銀歯のクラウン、インレーなど)で、不当に安い価格で製作する状況に追い込まれており、長時間労働を余儀なくされ、命を脅かされている実態をルポした。
実際に過労死した人もいる。 歯科医に技術料を値切られる問題は以前からあり、歯科技工士会が国に改善を求めた結果、昭和63年に旧厚生省から大臣告示を引き出した。
「歯冠修復及び欠損補綴料には、製作技工に要する費用が含まれ、その割合は、製作技工に要する費用がおおむね100分の70、製作管理に要する費用がおおむね100分の30である」
大臣告示には法的拘束力がないが、学習指導要領や生活保護基準、JAS法の食品表示などは、実は大臣告示で運用されている。
したがって、歯科技工の技術料も同様に、運用されるのが妥当な解釈だ。
日本歯科技工士会は、大臣告示に基づいた「7対3」の技術料金を歯科医に求めるように、全国の会員に指示した。
しかし、歯科医師会はこれを無視、旧厚生省も歯科技工士の窮状を知りながら見て見ぬフリをした。つまり、不作為である。
関西の歯科技工士は「7対3」の技術料を取引先の歯科医に求めた結果、仕事を完全に干された。
絶望した歯科技工士は、幼い子供と妻を残して、電車に飛び込んで命を絶った。
これが当時、全く報道されなかった理由も取材で判明している。
それは私がいつか必ず伝えようと思う。
話を戻そう。
前記の歯科医は、次のように投稿している。
「”つまり技工士の取り分が「7」で歯科医は「3」にすべき、という内容である”これが明らかに間違った認識です。国は単に「調査の結果、現状そうなっている」と説明しているだけです。詳細についてはご案内したページをお読みください。同様に”国として技術料の割合を示しておきながら自由契約であると開き直る~”という認識も明らかな間違いです。ですから厚労省はあのようなコメントをしたわけです。
みんなの歯科ネットワーク「歯科技工士問題の改善を目指して ※クリックで別サイトへ移動
わかりやすく言えばもし国が7:3と決めたなら「7:3である」とは言わず「7:3とする」という言い方になります。私はこの告示を作成した本人、厚生省の官僚(当時)と直接お話して聞いてますので間違いありません。
先に説明したように、旧厚生省、および厚労省は責任当事者だ。
したがって、当時の担当者の弁明を真に受けるのは、あまりに世間知らずとしか言いようがない。
保険診療において、銀歯等の歯科技工物は、重要な役割を担っているからこそ、診療報酬において公定価格がある。
したがって、その内訳においても大臣告示の「7対3」で運用する方向性が妥当なはずだが、これを歯科医が勝手に無視して、市場原理を持ちこんだので、現在のゼロサムゲーム状態が生まれた。
厚労省が国会答弁等で「自由契約」を盾に関知しないスタンスをとるのは、これまでの対応に問題が無かったことにする意図だろう。
強圧的で政府与党と関係性が深い、日本歯科医師会を敵に回したくない当時の担当官僚が、あのような解釈の幅がある大臣告示を作文した。
その人間こそ、混乱の元を作り、社会に知られぬまま過労死した歯科技工士の命について、重い責任があると私は思う。
取材させていただいた57歳の歯科技工士は、画像の作業机に突っ伏して、2時間ほどの仮眠をとる、と話していた。
おそらく今日も夜明けまで、誰かの口の中に入る大切なインレーやクラウンを、丁寧にその手で作り上げているだろう。