18日夜、80代の患者が救急搬送されたのは、存続の危機に立たされている福島県広野町の高野病院だった。 患者は広野町在住。持病があり、室内で転倒した際に足を骨折した疑いがあるという。
救急隊員は高野病院の現状を知っているので、いわき市内の救急輪番の病院に受け入れを依頼したが、8ヶ所に断られた。
やむなく、高野病院に連絡したところ、偶然にも今夜はDMATのメンバーで、福島県立医科大・救急医学講座の中島成隆医師が当直していた。
中島医師は1時間ほどかけて検査と脚の固定を行い、患者は自宅に帰ることができた。
この日、原発事故の対策拠点となっているJヴィレッヂで、高野病院の存続をめぐる、第二回の緊急対策会議が開かれた。
東京新聞がWEB版で、会議の内容をいち早く伝えたが、この記事を書いた記者は何も視点を持っていないと感じた。
福島県のリリースを要約しているだけだからだ。 (高野病院を支援する会・尾崎章彦事務局長が、福島県の対応や高野病院の真意について、会のFBで詳しくレポートしている)
東京新聞といえば、井上能行編集委員が「高野病院奮戦記」という貴重な記録を残してるだけに、残念な限りである。
『高野病院に対する県による支援』という福島県が作成したペーパーが、マスコミ各社に配布されたので、接写(画像1)を貼り付けた。
これが『ゼロ回答に等しい』ことが、大半の記者には読み取れないらしい。
南相馬の若手医師が中心になって立ち上げた『高野病院を支援する会』は、ボランテイア医師の交通費などの為に、クラウドファンディングを行い、現時点で約600万円が集まっている。 だから、左側の大半は、県の財政支援は必要ない。それを十分に承知しているはずなのに、何食わぬ顔で項目として入れ込んでいるのは姑息としか言いようがない。
さらに、中央の一番下の枠にある、ボランティア医師は、福島県が集めたのではない。
都立駒込病院の外科医が、2月と3月のみ高野病院・院長となることが決まった。
これは『支援する会』の情報発信で実現したもので、県の支援ではない。
さらに、いま必要なのは4月以降の院長となる医師だ。 それを福島県に託していたにもかかわらず、「経営者(=院長)確保は設置者(養高会=高野病院)が行い、設置者の意向を尊重して支援する」と突き放した。
常勤医の《人的支援》でも「4月以降、常勤医不在の場合、県と県立医大で連携して派遣する仕組を構築」とある。
「院長は自前で用意しろ、常勤医は4月の時点でいなければ、そこから探してやる」
このような状況では、4月以降に高野病院を存続させるのは極めて厳しい。
つまりこれは「支援策」ではなく「切捨て策」なのだ。
高野病院は、故・高野英男医師のスーパーマンのような働きぶりで維持されてきた。
「24時間365日、休みなく患者と向き合い、他の病院であれば医師3人分の仕事をこなしていた」と、あるベテラン看護師が証言している。
これを他の医師に要求しても、さすがに無理だろう。
さらに、去年の診療報酬改定により、高野病院は大幅に減収減益となった。 2011年から無理を重ね、東京電力が妥当な賠償をしていなかったので、高野病院は経営的にも追い詰められているのだ。
だから高野病院事務長・高野己保さんは、ずっと以前から危機感を抱いて、福島県と広野町に財政支援や医師派遣を要請してきたが、完全に「スルー」されてきた。
民間である高野病院だけを特別扱いするわけにはいかない、という理屈だった。
そして、高野英男医師が急逝。
高野己保事務長は、病院を存続させるには、民間病院から公立病院に経営形態を変更するしかないと考え、福島県に対して病院の無償譲渡を内密に提案した。 高野事務長がこれを公の場で口にしなかったのは、患者や家族に不安を与えたくないという思いと、第2回会議で福島県から何らかの提案があることを期待していたからだ。
その期待は、あっけなく裏切られた。
日本テレビ系列の報道では、まるで高野病院が経営を放棄しているような表現をしていたが、県庁発表を鵜呑みにするのは、記者として恥ずかしいことだと気づいてほしい。
これは誤報だから訂正すべきだ。
相双地区の救急医療では、笑えない冗談のような話がある。
福島県立医大は、去年6月から楢葉町の富岡消防署楢葉分署を拠点にドクターカーを配備した。救急医療の空白を埋めるため、という触れ込みだった。
このドクターカーは、毎朝8時30分に福島市内の県立医大を出発。10時頃に楢葉町の待機所に到着するが、午後3時には県立医大に帰って行く。午後5時半が終業時刻だからだ。
現地滞在は5時間で、そのうち1時間は昼休み。しかも月曜から金曜までの限定なのだ。 地元の医療関係者は、苦笑いを浮かべながら証言した。
このような、現実から乖離した無駄なカネが浪費されている。
一方、高野病院は地域にとってかけがえのない存在であり、公共性の高い役割を果たしている。
例えば、PFIによる半官半民のような運営は、すでに他の自治体でも実施されており、検討に値するだろう。
相双地区の富岡町立診療所は、民間病院に委託されている。 まだ受診者が少ないので、毎月数百万円の赤字が出ているが、富岡町の予算で補填しているのだ。
高野病院は患者と職員を守るために、無償譲渡を決意した。
これは経営を放棄しているのではない。
賽は投げられた。
福島県と広野町は、どのような答えを出すのだろう。