ネットで暗躍する免疫療法クリニックの正体


「免疫療法バッシングは、週刊ポスト9月8日号に飛び火」と題する奇妙な投稿があった。
「一般社団法人がん予防サポートセンター」という団体の代表を名乗るオオクボコウイチ氏という人物が、私の特集記事に対して、偏った内容で患者をバカにしていると批判しているのだ。
この投稿に不自然な匂いを感じて調べてみると、オオクボ氏は有効性が立証されていない「免疫細胞療法」を行なっている組織の関係者と判明した。同センターも実質的な活動などしていないフェイクの支援団体である。
国立がん研究センターが設置している「がん情報サービスサポートセンター」とよく似た名称は、意図的に混同させる狙いだろう。
まず、オオクボ氏による投稿の一部を以下に引用する。

「もちろん、世の中にはこの記事にあるような実態はあるのでしょう。しかし、一方的に悪者扱いするための記事であり、客観性があるように書かれていますが、非常に偏った記事ではないでしょうか。 そもそも、これらの治療に助けを求める人は、決してバカなのではなく、がん専門病院や大学病院でのひどい扱いに途方にくれた結果としての選択肢であるというところもあるのではないでしょうか。 患者さんの視点に寄り添う姿勢ゼロで、患者をバカ扱いしていますよね。一体誰に書かされているのでしょうか? このジャーナリストさんは誰なんでしょうか?」

一般社団法人がん予防サポートセンター 「免疫療法バッシングは、週刊ポスト9月8日号に飛び火」(現在サイト閉鎖)

「免疫細胞療法」悪質な手口やカラクリを週刊ポストで暴かれたのが、よっぽど悔しかったのだろう。私からは、盗人猛々しいという言葉をお返ししたい。
現在、自由診療のクリニックでは様々な「免疫細胞療法」が行われているが、臨床試験で有効性が立証されたものは皆無である。最近、話題のオプジーボも「免疫療法」と呼ばれることが多いが、自由診療の「免疫細胞療法」とは似て非なる治療法だ。
この紛れもない事実を隠して、がん患者を巧妙に勧誘する宣伝が、インターネットに氾濫している。
ポストの特集では、免疫細胞療法クリニックを受診した患者の証言を紹介している。詐欺的な手口のリアルな実態を読者に知ってほしいからだ。患者が取材に応じてくれたのは、他のがん患者に同じような経験をして欲しくない、という思いがあるからだ。                   
特集記事は「免疫細胞療法」の何が問題なのか、徹底的に追及しているのであって、オオクボ氏が指摘するような「患者をバカにしている」内容ではない。

「免疫細胞療法」問題について、私が取材を始めたのは2014年頃だった。同時進行で動いていた別のテーマを発表する必要性があり、結果として今年9月の報道になってしまった。
がん治療を取材していると、誰でも「免疫細胞療法」の悪質さや問題点について耳に入ってくる。週刊誌だけでなくテレビや新聞の多くの記者たちが、問題意識を持っているだろう。
掲載のタイミングとして、週刊現代の記事がポストに先行したが、別に〝後追い〟したわけでもないし、〝飛び火〟などではない。
「一体誰に書かされているのでしょうか?」とオオクボ氏は皮肉っているが、見当違いも甚だしい。
私がこの問題を報道するのは、「免疫細胞療法」に騙されて亡くなった患者の無念を晴らしたいからであり、闘病中の患者を詐欺的な医療の「罠」から守りたいからだ。

「一般社団法人がん予防サポートセンター」の所在地は 、東京都港区芝公園2丁目3番3号寺田ビル7階とある。 同じ住所、同じフロアにあるのが「株式会社細胞治療技術研究所」。その取締役が、オオクボコウイチ=大久保弘一氏だった。Facebookでは、次のように紹介している。
「患者目線からがん治療とフュージョン細胞の両立の有効性を模索、海外のがん治療事情にも詳しい」

さらに、同じ住所にある「医療法人社団慈涌会アクティクリニック」には、去年10月、厚労省が再生医療法に基づく緊急命令として立入検査を行っていた。
その結果、同クリニックは再生医療等の提供を一時停止、及び特定細胞加工物の 製造の停止を命じられている。再生医療法による業務停止命令は、初のケースだ。
この「アクティクリニック」が力を入れていたのが、「フュージョン細胞」という名の「免疫細胞療法」だった。

つまり、「免疫細胞療法」クリニックの関係者が、患者支援団体になりすまして、報道を批判したことが、馬脚をあらわすことになった。もし「免疫細胞療法」が本当に有効ながん治療ならば、このような卑劣な方法を使う必要はない。
同クリニックには、再生医療法違反だけでなく、誇大広告などを禁じた薬機法違反の疑いもある。

こうした免疫細胞療法は、決して希望ではない。有効性もないのに、自由診療の規制が緩いことを利用した、無責任で詐欺的な医療行為なのだ。
がん患者の方々は、どうか騙されないでほしい。 そして、当局もこれ以上静観するならば、薬害エイズと同様の「不作為」に問われるだろう。

〈追記〉
「一般社団法人がん予防サポートセンター」のサイトは、9月28日午後以降に閉鎖された。