がん免疫療法クリニックから利益を得ている日経グループ

「がん免疫療法の普及へ道筋を」 日本経済新聞 2017.11.10

「がん免疫療法の普及へ道筋を」と題した、11月10日付の日経新聞社説は、矛盾に満ちている。事情を知らない一般市民を欺く主張だ。

まず、根拠となるファクトを提示する。

https://www.youtube.com/watch?v=1odm9HM2ivA (追記:現在、この動画は削除されています)

上記URLは、「ANK」という名称で展開している会社のPRビデオのリンクである。
冒頭にクレジットされるのは「日経VNBC」。日経新聞のグループ会社である。 内容から推察すると、制作費は数百万円の映像だろう。
ただしANKにとっては、決して高い投資ではない。「日経」グループのクライアントという立場が確保され、よほどのことがない限り、報道での批判を回避できるからだ。

「ANK」は、1クールの費用(あえて、治療費とは記載しない)約400万円を一括で患者に前納させる。しかも、「1クール × がんのステージ」という科学的とはいえないロジックで、患者から大金を巻き上げているのだ。
免疫療法を検討する患者の大半が、完治を望めないと診断されたステージ4。つまり、1千万円以上をつぎ込むことになる。
「治るなら払う意味はある」と思う人もいるかもしれない。
しかし、ANKの有効性は、これまで一般的な臨床試験で証明されていないのだ。 現代医学の常識では「フェイク」のレベル。
免疫療法は、医学界の都市伝説と化していると言ってもいい。

日経新聞は、このANK以外にも免疫クリニック大手・瀬田クリニックなどの広告を全面で掲載している。
一回掲載すると1千万円前後の売上になる。
つまり、免疫療法と日経グループは、ビジネスで密接につながっている関係にあり、学会では「利益相反」として開示すべき情報だ。
こうしたファクトをふまえて、日経の社説における3つの矛盾点を指摘する。

<矛盾1>

『国内でも、海外の先行例を踏まえ法に沿って慎重に実施している医療機関はある。「オプジーボ」など承認済みの免疫薬を使った治療や、一部の先端的な遺伝子治療も、免疫療法に分類される』

日経新聞11月10日 社説「がん免疫療法の普及へ道筋を」より

民間で実施されている「免疫細胞療法」とオプジーボなどの「免疫チェックポイント阻害剤」は、概念も作用機序も全く異なる。
これを同じものに分類するのは、意図的な「目眩し」だ。
日経は「一部の先端的な遺伝子治療」と曖昧にしているが、これは一体どの免疫細胞療法を指すのか、明らかにすべきだろう。
前国立がん研究センター理事長・堀田智光氏は、私の取材にこう述べている。
「免疫チェックポイント阻害剤は〝抗体薬〟、有効性が立証されていない民間の免疫細胞療法は〝古典的免疫療法〟と分けるべき」
現時点で、免疫細胞療法の有効性を立証しているのは、海外の治験である「CRT-T」のみ。
これは、前立腺がんで大きな効果が報告されているが、あくまで治験段階である。

<矛盾2>

『その一方で、設備が不十分な一部の民間クリニックが、安全性のはっきりしない方法で免疫細胞を処理して体内に入れる治療をした例が明らかになっている。再生医療等安全性確保法に違反して処分されたところもある。結果として免疫療法全体に疑いの目が向けられているのが現状だ』

日経新聞11月10日 社説「がん免疫療法の普及へ道筋を」より

「再生医療法」で無法地帯だった免疫療法の規制が可能になった、と厚労省関係者はいう。
しかし、実態は「ザル法」だ。なぜなら、この法律で規制できるのは、施設基準による「安全性」のみ。肝心の「有効性」の立証は問われていないからである。
日経の社説を注意深く読むと「安全」に触れているが、「有効性」には、全く言及していないことに気づくだろう。
つまり、施設基準をクリアすることで、あたかも国のお墨付けを得たかのように、免疫クリニックは大手をふって患者を集めることができるし、日経の社説はそれを後押ししているようにも受け取れる。

<矛盾3>

『だが拠点病院は、診断・治療に必要な医師やスタッフ、設備がそろい実績もあるからこそ、指定されている。厚労省が優先すべきは、体制の整わない民間クリニックなどの実態調査ではないか』

日経新聞11月10日 社説「がん免疫療法の普及へ道筋を」より

これは、「良い免疫療法」と「悪い免疫療法」があるような印象操作だ。
文脈から解釈すると、日経の『良い』とは、厚労省の施設基準をクリアした施設ということになり、有効性は関係ないことになる。
しかし、実際は、臨床試験で科学的に有効性が立証された「免疫チェックポイント阻害剤」と、有効性が立証されていない「免疫細胞療法」の二つに分類される。
日経の社説は「体制が整わない民間クリニック」を問題視するが、患者が大金を支払うのは「有効性」に期待しているからで、「体制」(厚労省の施設基準など)は関係ない。

しつこいようだが、日経グループは、有効性が立証されていない免疫療法クリニックをクライアントにしている。
利益を得ている企業に対して、有利な報道を行うのは、報道機関のコンプライアンスに抵触する可能性が高い。
日経の社説は、最後にこう締めくくられている。
『「悪貨が良貨を駆逐する」のように、一部の不適切な行為のために患者の治療機会が奪われてはならない』

日経の主張する、悪貨とは?そして良貨とは?
現代医学の基準では「有効性」だが、日経の判断基準は別にあるらしい。