新書「やってはいけない歯科治療」のスピンオフ企画として、短期集中連載の最終回は、私としては自身の不覚と向き合う内容です。
歯医者のタブー<モラルなき歯医者たち>[週刊ポスト2018.6.29号]
・学会が明確に否定したホメオパシー治療を行う歯科医の存在
・歯科医が「ガンが消えるサプリ」を広告していた珍事に批判
現在、歯科医の一部には、「スピリチュアル」もしくは「オカルト」的な治療を、保険診療と組み合わせて、堂々と行なっている者がいます。
10万人の歯科医のうち、このような行為を行うのは一部かもしれませんが、現行法では全く規制もされないのは異常です。
特に許しがたいのは「がんが消えるサプリメント」なる、詐欺的な商品を販売している歯科医院。
私の指摘に対して、同医院はウェブサイトを一部修正しましたが、まだサプリメントの販売は継続しています。
今後も「詐欺的サプリ」を服用する患者が出る可能性もあるので、「削除された同医院のホームページ画像」を掲載します。
今月13日午前2時に保存した、同医院のウェブサイトでは、
「バイオレック」なる免疫療法サプリメントの「治療例」を次のように掲載していました。
「進行乳がん(4センチ)
バイオレック内服のみで腫瘍消失」
「進行乳がん、肝臓転移、骨転移
高濃度ビタミンC点滴+バイオレック内服
3ヶ月で腫瘍が完全消失」
「原発不明頸部リンパ節転移
手術とバイオレック内服にて現在再発なし」
「口腔がん、頭頸部がんなどの扁平上皮癌にも効果が認められています」
ここに掲載されていることが事実なら、サプリメントではなく、画期的新薬として世界中から絶賛されているでしょう。
がん化学療法の専門家・勝俣範之教授(日本医科大学腫瘍内科)に検証してもらったところ「歯医者まで、こんなインチキをやるとは…」と呆れかえっていました。
「これは悪質です。がんが消えるサプリメントなんて存在しません。インチキです。それに歯科医が、全身のがん治療を行なっているのなら、大問題でしょう。高濃度ビタミンC点滴の効果は、科学的に証明されていません。だから、気休め程度でお金の無駄です」(勝俣教授)
サプリメントで「腫瘍が完全消失」と広告することは、薬機法違反の疑いが強く、2018年6月からは医療法でも、ネット上での「虚偽、誇大広告」が禁止されています。
「高濃度ビタミンC点滴療法」は、一般的なクリニックでも行われていますが、「がん治療」としての科学的根拠がないばかりか、過剰摂取により腎臓障害が起きる可能性もあります。
歯科だけでなく、医科でのモラルハザードは深刻で、ブランド病院や大学に所属していた医師が、こうした詐欺的な治療に関係しているケースが散見されます。
冒頭で私自身の不覚と述べたのは、この歯科医院の院長をインプラント治療の専門家として、「2016年の連載時」に紹介してしまったことです。
同医院の歯科医は、インプラント治療において、定期的に説明会を開いて患者にリスクや手術の失敗例を詳しく解説したり、大学の耳鼻科医師と連携するなど、先進的な取り組みをしていました。
同医院が、このような詐欺的ながん治療に手を染めていたことが判明したのは、新書版「やってはいけない歯科治療」の執筆にあたり、取材先の歯科医院を再調査したからです。
連載当時、同医院がこのような詐欺的がん治療を行なっていた事実を把握できなかったことは、慚愧の念に堪えません。
この場を借りて、読者の方々に深くお詫びいたします。
このような経緯から、同医院のウェブサイトを私個人の判断と責任において掲載いたします。
岩澤倫彦
追記
新書版「やってはいけない歯科治療」において、ご紹介させていただいた歯科医の方々は、このような確認作業を経て掲載させていただいています。連載時にご紹介しながら、新書で掲載しなかった歯科医の方々も多数いますが、それは必ずしも問題があったからではなく、構成上の理由によるものです。