ご老人の象徴のようなイメージを、入れ歯に抱く人も多い。 かくいう私も「入れ歯だけにはなりたくない」と思っていたが、映画「万引き家族」で、あの樹木希林さんが、入れ歯を外して演技したカットを見て、考えが変わった。
歯がないより、入れ歯を使った方が、外見上も健康面でも絶対に良い。
ただし、「入れ歯」にも、歯科業界が抱える歪みが反映されている。
「保険の入れ歯では、良いものはできない」という歯医者は少なくないが、そこにはカラクリがある。
高額な費用をかけて自費の入れ歯を作ったのに、「痛い」「噛めない」という人もいる。
詳しくは本誌をお読みいただきたいが、唖然とするのは心を込めて時間をかけ、丁寧に入れ歯を製作している歯科技工士に対して、作業料を値切っている歯医者がいることだ。
入れ歯の製作工程も取材したが、想像以上に時間と手間、技術を注いでいる。
日本の保険診療が、先進国と比較すると、低く抑えられているのは事実だけれど、構造的に最も弱い立場にある歯科技工士だけにしわ寄せがいくのは、フェアじゃない。
歯科業界全体で、診療報酬の改革に向けて行動すべきなのに、 このまま歯科技工士を搾取するなら、日本で「入れ歯」が作れなくなる日が本当に来るだろう。
「保険の入れ歯は、質が低い」のではない。
「安い費用に見合った治療時間しかかけられない」と正しく患者に説明すべきだと思う。
入れ歯を「凶器」と表現するのは抵抗があったが、調べてみると、入れ歯が外れて窒息するなどして死亡したケースがあった。
また、正月の恒例になっている、高齢者が餅を喉に詰まらせて窒息死するのは、合わない入れ歯が原因だったという報告もある。
保険の入れ歯だから、噛めない、外れやすい、というのが当たり前とするべきではないのだ。