「免疫細胞療法は、全然効果はない」
「高い治療費を自費で払う自由診療は〝危ない〟」
「日本は保険診療で良い医療が、必ず受けられる」
今月公開された動画インタビューで、国立がん研究センター(以下、国がん)・中央病院副院長の藤原康弘医師は、こう断言した。
がん治療の第一線に立ち、厚労省関連の要職にある人が、「免疫細胞療法」を明確に否定したのは初めてのことだろう。
インタビュアーは、がん保険のCMにも登場している、岸田徹さん。嵐の櫻井翔に「何でも明るく語るんですね」と言われていた、あの爽やかな若者だ。
動画を企画した「グリーンルーぺ」は、患者会4団体「希望の会」「ワンステップ」「キャンサーペアレンツ」「がんノート」、がん情報サイトを運営する会社「オンコロ」が、横断的に集まったユニットである。
彼らの目的は、がん体験者や家族が「がんに罹患する前に知っておきたかった情報」を自ら発信することだ。
書店やインターネットには、真偽の定かではない「がん情報」が、カオスのように溢れている。
厄介なことに、偽りの情報の方が目立つ。典型的なパターンは、進行がんで厳しい状況になっても、希望を持てる「特別な治療」があるというもの。
そして、誘導された先にあるのは「免疫細胞療法」や「がんが消える食事法」なのだ。
偽りの情報は、貴重な時間と金を巻き上げる「罠」でしかない。
エビデンスもないのに高額な治療費をとる「免疫細胞療法」は非科学的であり、「がんビジネス」というべき医療倫理を欠いた行為だ。がん患者に偽りの希望を持たせる宣伝活動は、「詐欺」に等しい。
それなのに、「免疫細胞療法」を表立って批判する医師は、極めて限られていた。
医学界の重鎮や現役の大学教授が、「免疫細胞療法」の関連団体やクリニックに名を連ねているため、この問題に触ることが「暗黙のタブー」になっているからである。
また、自由診療は医師の裁量権によって過剰に守られており、アンタッチャブルな領域になっている。何より「効果が証明されていないがん治療」を規制する法律がない。
だから、国立がん研究センターでさえ、公式見解としては「免疫細胞療法の有効性は確認されていない」、と遠回しに示唆するのが精一杯だった。
今回の「グリーンルーペ」動画プロジェクトは、こうした閉塞状況を変える「蟻の一穴」となるかもしれない。
不条理な経験をしてきた、がん患者や家族の強い願いなのだ。
私は、この動画の撮影と編集を担当している。友人の轟浩美さん(希望の会)から企画を相談された際、本庶佑氏のノーベル賞・受賞式に合わせて、動画を公開する計画を立てた。
本庶氏の研究による「免疫チェックポイント阻害剤」と、自由診療クリニックによる「免疫細胞療法」は、全く異なる治療法である。それなのに二つは、同じ「免疫療法」という言葉で括られることが多い。
これでは、一般の人に誤解が生じても当然だろう。そして、ノーベル賞に便乗して「免疫細胞療法」に誘い込むクリニックが、きっと現れるだろうと予測された。
そこで、二つの「免疫療法」は何が違うのか、そして効果はあるのか、藤原医師に解説してもらうことになったのである。
まず、今月6日に『岸田徹がズバリ聞く!誤解だらけの免疫療法』という約10分の動画をYoutubeに公開した。
快刀乱麻のごとく、藤原医師は「免疫細胞療法」の問題点を鮮やかに斬りつけている。その言葉は、2度のがんを乗り越えてきた、岸田さんだから引き出せたものだ。
藤原医師が、こんな免疫細胞療法の実態を初めて明かした。
「重大な副作用や体調が悪化した時に、自由診療のクリニックの電話が通じないし、対応しない。ウチでは診ない、と言われてしまう。実際にそういう患者さんが、救急車で国がんに搬送されてきた」
「マジか!」
岸田さんは思わず叫んだ。
こんな無責任なことが、許されていいはずがない。
今月12日には、国がん・がん対策情報センター長の若尾文彦医師による『知っておきたい がん情報の見分け方』(約12分)を公開した。
ここでも、岸田さんは「がんに効く?にんじんジュース」の疑問などをぶつけているので、ぜひご覧下さい。
そして、この動画をシェアしていただき、正しい情報の拡散にご協力をお願いします。
近日中に、収録のノーカット・バージョンも公開する予定です。