受験シーズンも終盤に入ったが、今年度も歯科大の偏差値は低空飛行だ。
今週発売のPRESIDENT「歯医者の裏側」に掲載されている、歯科大・歯学部の偏差値ランキングによると、最も低い「37.5」となったのが私立で4校もある。
医療者の学力レベルとしては、問題のある数字だ。
第112回 歯科医師国家試験の合格発表について <厚生労働省 3/18発表>
10年ほど前から、偏差値が低い歯科大の定員割れが目立っている。理由は歯科医師の将来性と、社会的な評価の低さだろう。
私立歯科大の学費は、総じて高額で、かつては最高6千万円のところもあった。それが、虫歯の患者数が激減して、従来型の診療スタイルでは、歯科医院の経営が成立しなくなっている。「学費分を回収できないほど、稼げない」とこぼす歯科医師も珍しくない。
歯科医師数が過剰になっている状況を受けて、国は各歯科大に定員減らしを要請したが、対応が鈍かった。高額な学費に経営が依存していたので、定員減らしは死活問題だったからだ。
そこで国は、歯科医師・国家試験の合格者数を抑制する方針をとった。
その結果、合格者数は平均で6割前後、最も低い歯科大では「24.3%」しかない状況になってしまった。合格率が6割を超えているところも、事前の学力テストで足切りをしていると関係者から聞いた。
そして、歯科医師の社会的な評価の低さは、若者たちにとっても心理的に影響を与えているだろう。
各マスコミが「歯科特集」を組む際、歯科医療に対する不信感を切り口にしたものが多い。上品な経済誌のイメージが強い、PRESIDENT誌でさえ、こんなフレーズがサブタイトルに付いた。
「あなたは騙されていないか?」
「大損していないか?」
このようなイメージが定着してしまったのは、マスコミの印象操作だという反論も聞く。
しかし、取材の実感としては、残念な歯科医師は少なくない。
・有効性が否定された治療法を自由診療で行い、高額な費用を取る。
・コストの問題で、標準的な感染予防をしない。
・歯を残す努力をせずに、安易に抜歯する。
・独自理論で自分だけが治せる、と豪語する。
挙げるとキリがないほど、誠実さを欠いた診療が行われている。こうした歯科医師ほど、ビジネス意欲が強いので、自己アピールや宣伝が上手く、多くの患者を集めてしまう。
最終的にはトラブルなどが頻発して、歯科医師の社会的な評価を貶めているのだ。
モラルを欠いた歯科医師の一方で、質の高い歯科治療を地域住民に提供している歯科医も存在する。こうした実直で誠実な歯科医は目立たないから、なかなか見つけづらい。
歯科医療にパラダイムシフトが起きて、歯科医師が尊敬される職業となった時、若者たちの人気も得ることができると思う。