「近藤誠さんを使った健診の特集記事、読みましたよ。岩澤さんのパートも4ページで組んでいましたね」
がん治療のテーマで一緒に取材をしている編集者から言われ、私は面食らった。たぶん、豆鉄砲でも食らった間抜けな顔をしていたと思う。
噛み合わない会話を交わし、事務所に戻って届いていた献本を目にした。
「何だ、これは!」
呆気にとられた。
今月のプレジデント誌の表紙を飾っていたのは、あの「近藤誠」だったからだ。
最近、なぜか私が雑誌の取材を受けることが続いている。
プレジデント編集部の依頼は、「健診と検診」の違いや、歴史的背景、問題点などをインタビューしたいというものだった。
担当編集者とライターのお二人から、質問を受ける形で2時間ほど話した。後日、整えられた原稿が送られてきて、私が修正の赤を入れて戻した。
届いた最新号では、4ページにわたって私のインタビューが掲載されていた。修正は概ね反映されているので、この部分には私に全責任がある。
ただし、企画全体は近藤誠氏の主張で構成された「要らない健康診断」であることは、雑誌が届いて初めて知った。
今年4月、世界文化社から出版した拙著「やってはいけない がん治療」の第1章は、近藤誠氏のセカンドオピニオンを私が受けた顛末を中心に書いている。
以前、私は消化器のチェックでCT検査を受けた際、肺に影があるのを偶然発見された。
いつも冗談を言う消化器内科の主治医が、硬い表情を崩さない。私は血の気が引いた。
冷静さを取り戻して、これをネタに近藤誠氏のセカンドオピニオンを受けることにしたのだ。
近藤氏の本はバカ売れしており、中にはミリオンセラーになった著作もある。作風は実に巧妙だ。
〝現代のがん医療は、患者を苦しめるものであり、大半のがんは治療しても、しなくても予後は同じ〟
近藤氏の結論として、「放置療法」という独自の考え方を打ち出している。
注意しなければならないのは、近藤氏の話は「真実」の中に、都合よく歪曲した理論を紛れこませていることだ。
それは、患者を騙すトリックでしかない。拙著でも、具体的なケースを挙げて詳しく指摘をしている。
もし、近藤氏が前面に打ち出された企画だと事前に知っていたら、取材を遠慮しただろう。
だが、出版されるまで、企画の全体像を明かさなかったり、ゲラの確認をさせない雑誌もある。
自分も記事を作る側にいるから分かるが、それを全部やりだすと収拾がつかなくなり、締切に間に合わなくなるだろう。
自分が取材を受ける機会はそんなに多くないが、これからは対応を考えなければならないと思っている。