今月10日発売の「文藝春秋」に掲載された記事では、東京都医師会長の尾崎治夫氏を厳しく批判した。
テレビニュースの時代から最近まで、私が手がけてきた報道の中で個人を批判することは少ない。(例外として、自著の中で近藤誠氏を正面から批判している)
我が身を振り返ると、これまで多くの誤報を出し、報道で他人を傷つけてきた。車の運転では、いつも制限速度を少しオーバーして走る。
そんな人間が、自分のことを棚に上げて他人の問題点をあげつらう事など、本当はやりたくない。それでも職業的に問題を知った以上、報道しない選択はなかった。
尾崎氏のFacebookには、彼を擁護するコメントが多数寄せられ、私に対する批判が多かったと友人が教えてくれた。
記事掲載後、尾崎氏からブロックされているので私は見ることができない。なので友人が、彼の主張をスクリーンショットで送ってくれた。
尾崎ファンの感想を吟味する気はないし、どのような感想を抱こうとも自由だろう。
ただし、東京都医師会長が、再生医療の審査において利益相反の立場で関わっていたことは、やはり不適切だったと思う。
掲載枠の関係で割愛したが、尾崎氏の順朋会再生医療等委員会の規定・第四条(会議の開催) には次の一文がある。
掲載枠の関係で割愛したが、尾崎氏の順朋会再生医療等委員会の規定・第四条(会議の開催) には次の一文がある。
「対象となる提供計画を提出した医療機関と利害関係を有しない委員が過半数含まれること」。
同委員会の参加者が5人だった時、利益相反の関係にある尾崎夫妻と歯科医・黄氏の3人だったのは合計29回。
同委員会の規定を満たしていないので、本来は無効だと解釈されるのが自然だろう。
ちなみに、委員の中には弁護士もいるから、法的な判断を確認してもらいたい。インタビューでは、利益相反に関して尾崎氏は認めようとしなかったので、議論にならなかったが、ご本人が一番分かってるはずだ。
そもそも、私がこの記事を企画した原点は、「再生医療等安全性確保法」が極めて問題が多い法律である、という点にあった。
同法に基づき、厚労省は全国の約160団体に「認定再生医療等委員会」の設置を認めたが、大半が民間の医療法人や業者。2017年に違法ながんの自由診療で業務停止命令を受けた医師が、代表を務める団体も含まれている。
その団体の委員名簿に、薬害エイズや薬害肝炎の原告弁護団で活動していた弁護士の名を見つけた。いわゆる人権派とされる弁護士でありながら、詐欺的な「がん免疫細胞療法」に加担するとは、どういうつもりなのだろう。
尾崎氏と同様に、膨大なデータのなかに埋もれて、注目されることはないと思っていたのだろうか。いつか聞いてみたい。
記事本文に書いたが、「再生医療等安全性確保法」の最大の問題点は、有効性が確立されていない自由診療の「がん免疫細胞療法」が、再生医療の第三種に分類されたことだ。これによって、公的なお墨付きを与えられた、と誤解されているし、宣伝材料に使われてしまっている。
自由診療の「がん免疫細胞療法」は、末期がんの患者をターゲットに行われ、治療はやりっぱなしだ。一般的な医療のように、治療成績を積み重ねて公表し、情報を共有するということはしない。自分のクリニックの利益を上げることが、最大の目的だから必要ないのだろう。
去年9月、厚労省の委託事業として公表された「成果報告書」には、重要な指摘がある。第二種を対象にした「再生医療を実施する医師の専門性」の調査では、ミスマッチが強く推定されるケースおよび、ミスマッチが推測されるケースは、実に30%もあった。
具体的には、「肝障害の治療を美容外科・美容皮膚科・形成外科の医師3名が行う計画」。「アトピー性皮膚炎の治療を脳神経外科医が行う計画」というのもある。
医療の常識では考えられない計画だが、これでも再生医療としてパスしていたのだ。計画を提出する側も、審査する側もいい加減であることがわかる。
「科学的な根拠に基づいた再生医療か」では、引用論文を調査していた。
「安全性が確認できる論文を引用していた計画」は74.9%。残りの約25%は、安全性の根拠もなく、効くか分からない再生医療を受けていたことになる。これが、再生医療のもう一つの現実なのだ。
尾崎氏について、厳しく批判することを決めた理由は他にある。彼の再生医療委員会のメンバーの中に、自由診療のがん免疫療法の関係者がいたのだ。
尾崎氏について、厳しく批判することを決めた理由は他にある。彼の再生医療委員会のメンバーの中に、自由診療のがん免疫療法の関係者がいたのだ。
委員会に参加した形跡はほとんどないが、尾崎氏と何らかの接点が存在していたのは確かだ。
また、自身のFacebookにて尾崎氏は、「事務局から私の医療法人順朋会に振り込まれている金額はここ3年間でも2019年63万円、2020年56万円、2021年57万円(※端数省略)」と記している。
ではなぜ、新規の審査件数が最も多かった2015年のデータを公表しないのだろう?
また、彼が経営する医療法人順朋会だけでなく、順朋会再生医療等委員会が得ている審査手数料も公表すべきではないだろうか?
さらに言えば、私はインタビュー取材前に、尾崎氏に対して審査の手数料収入について公表するように求めていたが、「僕は把握していない」と回答を避けた。
厚労省が公表した報告書の〝黒塗り〟部分に尾崎会長の順朋会再生医療等委員会のことが記されていたのか、厚労省の担当者に尋ねたが、個人情報を理由に開示は拒否された。しかし、税金を使って行われた調査なら、問題の所在を具体的に示すべきだし、関わった研究者らも、口をつぐむべきではないと私は思う。
もう一つ、文藝春秋には記載しなかったことがある。
尾崎氏の順朋会再生医療等委員会のウェブサイトを監視していたところ、インタビュー取材の翌日、キーマンの委員である、歯科医の黄氏の名前がリストから削除された。
不可解なことに、その3日後には、また黄氏の名前は元のとおり復活していたのである。どのような意図で、そのような対応をしたのか、今でも良くわからない。
近いうちに文藝春秋で、自由診療のがん免疫細胞療法について、改めてお伝えしたいと考えている。