文藝春秋3月号「尾崎治夫会長 疑惑のカネ」に書かなかったこと

 今月10日発売の「文藝春秋」に掲載された記事では、東京都医師会長の尾崎治夫氏を厳しく批判した。  テレビニュースの時代から最近まで、私が手がけてきた報道の中で個人を批判することは少ない。(例外として、自著の中で近藤誠氏を正面から批判している)  我が身を振り返ると、これまで多くの誤報を出し、報道で他人を傷つけてきた。車の運転では、いつも制限速度を少しオーバーして走る。  そん […]

新型コロナウイルスに感染しました

5日間ほど、強い頭痛と倦怠感が続いていましたが、原稿の追い込み時期で、睡眠不足のせいだろうと思っていました。 念のために体温を測ると、「37.5度」。私の平熱は36度前後なので、新型コロナの可能性を疑わずにはいられません。仕事場近くにあるクリニックの発熱外来で、PCR検査を受けた翌日、携帯電話に連絡がありました。 「結果は陽性でした。追って保健所から連絡があります」 体温も38 […]

「近藤誠」のトリック

メディア関係者で、今も近藤誠氏を信用している人が少なくない。知名度が高い彼を起用することで、一定の販売部数を確保できる、という神話もある。だが、いい加減に古臭い考えは捨てた方がいい。近藤誠氏の曲解に満ちた主張を広めることは、彼の共犯者になるのと同義だ。 発売中のプレジデント巻頭企画は、「緊急告発!信じてはいけない健康診断」。近藤誠氏と和田秀樹氏の対談形式で構成されている。近藤氏 […]

取材を受ける立場になって考えたこと

「近藤誠さんを使った健診の特集記事、読みましたよ。岩澤さんのパートも4ページで組んでいましたね」がん治療のテーマで一緒に取材をしている編集者から言われ、私は面食らった。たぶん、豆鉄砲でも食らった間抜けな顔をしていたと思う。噛み合わない会話を交わし、事務所に戻って届いていた献本を目にした。「何だ、これは!」呆気にとられた。今月のプレジデント誌の表紙を飾っていたのは、あの「近藤誠」 […]

伊藤精介から託された仕事

17年前の9月19日、一人のノンフィクション作家が旅立った。  伊藤精介、享年52。  雑誌・ブルータスの元編集者で、「浅草最終出口」、「銀座バーテンダー物語」、「今宵どこかのBARで」などの著書がある。遺作となった「沈黙の殺人者 C型肝炎(小学館)」がきっかけで、私は伊藤と知り合った。  2000年当時、C型肝炎の患者は約200万人、B型肝炎は約150万人と推定されてた。「肝 […]

【川崎登戸殺傷事件】事件現場で感じた報道の役割

夜明け前、強い雨が降った。亡くなった父親が倒れていた場所には水溜りができて、灰色の空を映していた。路上に積まれた数え切れないほどの花と供え物。多くの人が失われた命を悼んでいる。 背後から無言で襲った後、容疑者の男は自分の首に包丁を刺して息絶えた。「この事件は、見ず知らずの他人を巻き添えにした無理心中」、と精神科医が嬉々としてテレビで解説する。 こうした報道に影響されたのか、ネッ […]

除草剤「ラウンドアップ」に潜む発がんリスク

ガーデニングや家庭菜園が楽しい季節になった。そこで、意外に面倒なのが雑草取り。ホームセンターなどで売られている「除草剤」で、手早く処理してしまう人も多い。だが、その「除草剤」の発がんリスクが、いま世界各地で問題となっていることは、日本ではほとんど知られていない。 土曜日の昼下がり、東京・丸の内に人々の声が響く。世界的な製薬企業のバイエル社が入っているビルの前で、200人を超す市 […]

麻酔による子供の死亡事件で、歯科医は裁かれるべきか

医療現場では、予測不可能な事態が起きる。だから判断ミスをした場合に、刑事事件で裁くことは妥当ではないという意見は根強い。ヒューマンエラーを100%なくすことはできないし、刑事事件として罪に問われることによって事実が隠蔽され、かえって再発防止策を講じることが難しくなると考えられているからだ。日常業務の判断ミスが、即刑事罰に問われるとなると、心理的なプレッシャーが大きく、現場が萎縮 […]

歯科治療を報道する理由 :「草の根歯科研究会」の勉強会で伝えたかったこと

日本の歯科業界が隠してきた「タブー」の一つに「学校の歯科検診」がある。検診で見つかった初期虫歯を見つけると、歯科医は治療勧告書を子供たちに渡す。これによって「歯を削って銀歯にする」治療が、半ば強制的に行われていた。従わない保護者は、ネグレクト(育児放棄)とみなされてしまう。 しかし、初期虫歯は正しい口腔ケア(歯磨き等)と再石灰化によって、修復されることが分かっていた。一度、歯を […]

製薬会社と医師、そしてマスメディアの知られざる関係

この世界は、金が絡むと話が複雑になる。本音と建前が交錯するからだろう。いわゆる大人の事情。講演や原稿執筆、コンサルティングなどの対価として、報酬が出るのは社会的に常識の範囲である。だが、製薬会社から医師に渡る金には、報酬名目以外に別の思惑が込められている場合があるから、情報公開のルールがある。 製薬会社は、無駄に情報公開の手続きを煩雑・複雑化させているし、入手した情報の二次使用 […]

マネーデータベースが教えてくれた、緩和ケア医の矜持

診察室から、豪快な笑い声が聞こえてきた。ここを訪れるのは、深刻な状況のがん患者のはず。それなのに、なぜ愉快に笑えるのか……許可をもらって診察室の中に入ってみると、眼光が鋭い白髪の男性がいた。二週間に一度の外来で、ゆっくりと進行していく自分の病状を笑いとばす。それが平野治行さんという人だった。 2014年、私のチームは、緩和ケア診療所「いっぽ」と萬田緑平医師(現・萬田診療所)を中 […]

インフルエンザ大流行

ゾフルーザの耐性問題と謝礼金 インフルエンザの勢いが止まらない。今日、厚労省が公表した最新の調査によると、1週間で患者数が約10万人増加、1医療機関の受信者数は約57万人。インフルエンザの統計を開始して以降、過去最悪の流行だ。 テレビや新聞が、画期的なインフルエンザの新薬として紹介していたのが「ゾフルーザ」。これを服用した小学生2人から耐性ウィルスが検出されたと、国立感染症研究 […]

「マネーデータべース 製薬会社と医師」の衝撃

2019年、各製薬会社から医師に渡されたカネが、誰でも簡単に分かるようになった。これを可能にしたのが、調査報道を行うNGO・ワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所が、膨大な情報を基に作成した「マネーデータベース」である。今月15日に無料で公開され、2日目で45万ビューを記録。医療現場にも大きな衝撃を与えている。私の元には、がん患者の方々から問い合わせが相次いだ。主治医や知人の医 […]

【2019年、仕事始め】情熱の歯科医・村岡秀明先生の取材

最初の取材と報道のテーマは、歯科治療でスタートした。 5日、入れ歯治療の指導者として著名な村岡秀明先生を訪ねて、インタビューをさせていただいた。村岡先生のクリニックは、最寄りの駅からバスを乗り継いだ住宅街にある。全国的な知名度でありながら、地域に根ざした医療を実践していることがうかがわれる。 村岡先生は入れ歯の研究のため、なんと自分の健康な歯を次々と抜いてしまったという、筋金入 […]

写真家・幡野広志さん

27日(木) 午後8時00分から、写真家・幡野広志さんのドキュメンタリーが、EテレでOAされる。ハートネットTV 「がんになって分かったこと〜写真家 幡野広志 35歳」 彼はブログ「死ぬかもしれないから、言っておきたいこと」の中で、現在、肺炎を起こして入院中であることを明かしている。担当医からは、このまま死ぬかもしれない旨を告げられ、心臓マッサージも人工呼吸器も拒否したらしい。 […]

「医療のネット広告規制」に魂はあるか

審査件数1位の「歯科」、刑事罰の適用はゼロ 「ステージ4で完治を目指す」「余命1ヶ月からの生還」‥‥巧みなセールストークで、がん患者の心理を翻弄し、科学的に有効性が証明されていない「免疫細胞療法」で、高額な治療費をとる。あるいは、いま話題の免疫チェックポイント阻害剤を、規定の量よりも大幅に少なく投与する。もし、強い副作用が出ても対応しない── こうした詐欺的ながん医療を行う、自 […]

歯医者の許されざるパワハラと狂言

「あなたは、この地区の歯科医師会や歯科衛生士会に関係するクリニックで、もう働けないことになりました。今日限りで、ここも辞めてもらいます」 勤務を終えたばかりの歯科衛生士の女性を呼びつけ、クリニックの院長は唐突にこのような通告をした。他のクリニックで新たに仕事をする時は、現在診ている患者を連れていく事は許さないと、付け加えたという。 女性は、パートタイムでこのクリニックに7年間も […]

「やってはいけない歯科治療」に対する〝歯医者の悪ふざけ〟

無責任な1回目のレビュー  新刊本を出版すると、取材先やメディア関係者に、お礼と本の紹介のお願いを兼ねて、「献本」するのが慣例だ。 今年5月30日に発刊となった、拙著「やってはいけない歯科治療」(※以下、本書)は、取材にご協力して下さった歯科関係者、新聞社、雑誌、テレビ、ウェブメディアの関係者に、版元の小学館編集部から送らせていただいた。 献本先に選んだ一人が、歯科医で実業家の […]

オウムが残した熾火

1960年代に生まれた私たちは「バブル世代」と言われることが多いが、同時に「オウム世代」とも重なる。小中学生の頃に話題になったのが、「ノストラダムスの大予言」、「コックリさん」、「口裂け女」。日常生活にオカルト的なものがあり、やがて世界の破滅が訪れる、という不安を当時の私たちは抱いていた。 二十代になると、同級生が未公開株で大儲けした、という類の話を耳にするようになる。浮かれた […]

「やってはいけない歯科治療」 重版のご報告

小学館新書として上梓した拙著が、版を重ねることができました。この場を借りて、お礼を申し上げます。また、本日発売の「週刊東洋経済」の新刊新書コーナーでもご紹介していただきました。 私としては4冊目にして、初の重版となったわけですが、無邪気に喜ぶことはできない心境です。 〝歯科業界に最も嫌われているジャーナリストが「歯医者のタブー」すべて書く!〟 拙著の帯には、こう記されています。 […]